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福岡高等裁判所 平成2年(ネ)444号 判決 1992年1月21日

控訴人

社会福祉法人あおば会

右代表者理事

仁保栲子

控訴人

仁保一正

右両名訴訟代理人弁護士

辰巳和正

被控訴人

国内信販株式会社

右代表者代表取締役

榊基臣

右訴訟代理人弁護士

川口晴司

主文

一  原判決を次のとおり変更する。

二  控訴人らは、被控訴人に対し、連帯して別紙請求認容金額目録記載の金員を支払え。

三  被控訴人の控訴人らに対するその余の請求を棄却する。

四  訴訟費用は、第一、二審を通じこれを四分し、その一を控訴人らの、その余を被控訴人の負担とする。

五  この判決は第二項に限り仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求める裁判

一  控訴人ら

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人の請求をいずれも棄却する。

3  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

1  本件控訴をいずれも棄却する。

2  控訴費用は控訴人らの負担とする。

第二  当事者の主張及び証拠関係は、原判決事実摘示及び当審記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおり(ただし、原判決五枚目表三行目の「である」を「であること」と改める。)であるから、これを引用する。

理由

一請求原因事実1及び2の事実は当事者間に争いがなく、同3のうち、控訴人あおば会が昭和六二年九月以降のリース料を支払っていないことは、<書証番号略>及び弁論の全趣旨により認められ、被控訴人が平成元年二月一日控訴人あおば会到達の本訴状で本件リース契約を解除する旨の意思表示をしたことは当裁判所に顕著である。

二抗弁について

1 右一の各事実と、<書証番号略>、原審における控訴人仁保一正本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によると、次の事実が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

(一)  被控訴人と訴外会社は、昭和五八年四月、訴外会社が販売する商品を被控訴人が顧客に代わって購入してこれを顧客にリースし、訴外会社には一括して購入代金を支払う、リースの申込みの受付け等の事務は訴外会社が被控訴人のため代行し、リース物件の価格については被控訴人と顧客において定めることなどを内容とする加盟店契約を締結していた。被控訴人は、訴外会社と割賦販売についても加盟店契約を締結していたが、顧客が法人である場合はリース料金の一部を損金に算入できるなど税法上有利であることから、リースを奬めていた。被控訴人と訴外会社は、資金面、人材面でも提携関係はない(当庁平成二年(ネ)第四二四号、同第六二五号事件の認定事実により当裁判所に職務上顕著な事実。)

(二)  控訴人あおば会は、昭和五六年頃から、その経営する保育園について訴外会社と警備契約を締結し、以後更新し、昭和五九年八月からは警備料が一か月二万円になっていたが、昭和六〇年八月頃訴外会社の申入れで年間警備料を八四〇〇円(月七〇〇円)とし、右保育園に設置する警備機器の借用料(リース料)を月額一万六三〇〇円としてこれを被控訴人に支払う旨のマイホーム警備契約を締結し、同月三一日被控訴人と右警備機器について本件リース契約を締結した。

(三)  契約書<書証番号略>によると、本件リース契約の主な内容は次のとおりである。リース物件である集中監視装置一式のリース対象価額(リース物件の購入価額に工事代金等を加えたものをいうが、本件では工事代金を加えていない。)は、タイコー送信機(RTS-一〇二)一台、五〇万〇〇〇〇円、感熱センサー(KP-一七一〇)一台、三一万三二一六円、マグネットセンサー(PS-一五二二)七〇台、一四万〇〇〇〇円、合計九五万三二一六円とされ、これに一か月1.71パーセントのリース料率を乗じて得た一万六三〇〇円(一〇〇円未満切上げ)を月額リース料とし、控訴人あおば会は、被控訴人に対し、これを七年間(八四月)にわたって支払う。控訴人あおば会は、リース期間の満了まで契約を解約しない(二条)。リース物件の瑕疵、故障については控訴人あおば会が訴外会社との間で処理解決し、これを理由に被控訴人にリース料の支払いを怠らない(四条)。物件の滅失、毀損についてのすべての危険は控訴人あおば会が負担する(八条)。なお、右リース物件のうち、タイコー送信機は従前から控訴人あおば会に設置されていたものであるが、新規に借り受けることになった右感熱センサー及びマグネットセンサー同様、被控訴人から引渡しを受けたものとして扱われ、また、右契約書には記載されなかったが、新たに区分チェッカー(五回路)が設置され、これを含む集中監視装置一式について本件リース契約が締結された。

四  右集中監視装置一式のリース対象価額は、加盟店契約上は、被控訴人と顧客との間で決められることになっているが、被控訴人は、購入価額に対する金利相当の利得を得ることしか念頭になかったところから、実際には右リース物件の選定、購入価額等は事実上訴外会社と控訴人の合意に任され、被控訴人が独自に妥当な購入価額等を調査するなどしてこれに関与しなかったため、訴外会社の意向が強く働き、本件リース物件については通常のリース対象価額(タイコー送信機、RTS-一〇二、新品の販売価額一四万〇〇〇〇円であるが、法定耐用年数が一〇年のところ、既に四年経過しているので中古品として八万四〇〇〇円が相当である。感熱センサー、KP-一七一〇(キング通信工業株式会社製)、一台で三万三〇〇〇円。マグネットセンサー、PS-一五二二(株式会社日本アレフ製)七〇個で計三万八五〇〇円(同社から訴外会社への納入額が不明であるので、キング通信工業株式会社製の類似品の販売価額に拠る。)。区分チェッカー(五回路)、四万〇〇〇〇円。以上によると遠方集中監視装置一式の販売価額は一九万五五〇〇円となるが、本件では右警備機器の工事代金を算入してないこと、リース契約締結後一年間は訴外会社において無料で保守管理を行うことになっていることのほか、訴外会社の転売利益などを考慮すると本件リース物件のリース対象価額は二三万五〇〇〇円を超えることはないと認めるのが相当である。)の約四倍強の価額に設定され、事実上警備料の大半をこれに上乗せし、その分についても訴外会社が前払を受けるような恰好になっているのに、右のような実態を確知できなかった。また控訴人あおば会も、訴外会社から警備機器を新しくすることと、毎月支払うリース料と警備料の合計額が従前毎月支払っていた警備料より安くなるとの申入れを深く考えないで受け入れ、被控訴人とリース契約を締結することにしたのであるが、被控訴人からリース契約の内容について詳しい説明を受けなかったこともあり、また右リース料と警備料の合計額が全体としての警備費用と考えられるところから、右の合計額については関心があったものの、右リース料の基礎になるリース物件のみの価額についてはそれほど関心がなく、訴外会社が警備業務を履行しない場合のリース料債務の帰趨について詮索することもなかった。

(五) 控訴人あおば会は、訴外会社が昭和六一年一二月倒産し、同六二年二月一五日以降警備業務を履行しなかったが、リース料の支払が銀行の自動引落しになっていた関係で昭和六二年八月まではこれを払い、同年九月分以降のリース料を支払わなかった。右リース物件は、警備保障会社の受信機と連結されて警備業務の履行を受けない限り、そのままでは防犯ベルとして利用する以外の用途はないが、それ自体の使用価値が失われているわけではなく、訴外会社と同じ受信機を利用している警備保障会社であれば勿論、当裁判所に職務上顕著なところによると、数万円程度の改造費を加えれば、訴外会社と異なる受信機を利用している警備保証会社との間でも本来の用途である警備機器として使用することも可能である(当庁平成二年(ネ)第三二八号事件の事実認定参照。)。

2 右事実をもとに抗弁について検討する。

(一)  抗弁2について

前記二(三)の認定のほか、<書証番号略>によると、控訴人は、タイコー送信機についてはすでに設置ずみのものについて、改めてリース契約を締結し、これを被控訴人から引渡しを受けたものとして扱い、以後被控訴人を所有者として占有したことが認められ、これにより引渡しを受けたこと自体は間違いがなく、控訴人の主張は理由がない。

(二)  抗弁1及び3について

割賦販売法三〇条の四第一項の規定は、法が購入者保護の観点から、購入者において売買契約上生じている事由を割賦購入あっせん業者に対抗しうることを新たに認めたものであり、立替払契約とは異なる法形式をとるリース契約に当然に類推適用を認めることはできない。ただ、リース契約においてもリース物件の瑕疵等利用者と供給者の間に生じた事由を理由としてリース料の支払を拒絶し得るとの特別の合意があるとき、または右事由によって生じる不利益をリース会社に帰せしめるのを相当とする特別の事情があるときは、利用者は右の事由を理由としてリース会社にリース料の支払を拒絶し得ると認めるのが相当である。

前記二(三)の認定によると、控訴人あおば会は、右の特別の合意をするどころか、本件リース物件である警備機器が、訴外会社の警備業務を履行する上で欠かせないものであり、また警備業務の履行がない以上、同控訴人自らその使用価値を実現できない性質のものであるから、右警備機器を借り受けるについては、契約の内容を右のような実質に適合するように検討すべきであったにも拘らず、訴外会社に言われるまま、被控訴人と右物件についてリース契約を締結してリース料を分割払にすること以上の問題意識を持たず、被控訴人も通常のフアイナンスリース同様の金利相当の利得を得ることしか念頭になかったところから、同控訴人及び被控訴人は、右実質に適合する契約を選択せず、本件リース契約を締結し、その内容についても格別検討を加えることなく、①リース期間中は貸借人からの途中解約を認めない、②リース料不払を理由にリース会社が解除したときは、貸借人において残リース料相当額の損害金の支払義務を負う、③リース物件引渡後はリース会社は瑕疵担保責任及び保守責任を負わないとの特約についても合意をしたのであるが、右のような合意をした以上、本件リース物件である警備機器の使用価値の実現が警備保障義務の履行にかかっている関係上、訴外会社の警備業務の不履行により右使用価値が実現できなくなったとしても、同控訴人が本件リース契約によるリース料の支払義務を免れると解する余地はない。

また、前記認定によると、被控訴人は、訴外会社との間に資金的、人的な提携関係はなく、訴外会社のように控訴人の不利益において利得を得るわけではなく、控訴人あおば会に金融の便宜を与え、融資額についての金利相当の利得を得るにすぎないこと、そして本件リース物件である警備機器のリース対象価額さえ通常の販売価額を基礎に設定しておれば、仮に訴外会社が倒産して警備業務の履行ができなくなっても、同控訴人は、訴外会社と同じ受信機を利用している他の警備保障会社に右警備機器を利用させ、あるいは若干の改造をして訴外会社と異なる受信機を利用する警備保障会社にもこれを利用させ、契約を引き継がせ、あるいは新規に警備保障契約を締結することも可能であり、本件リース契約が中途解約されることなく存続することになっても格別過大な損害を被ることもないこと、本件全証拠によっても、被控訴人が本件リース契約締結当時訴外会社が警備業務を履行できない事態に至ることを知り、もしくは知り得べきであったとの事情も認められないことなどを考慮すると、同控訴人が訴外会社の警備業務の不履行を理由に被控訴人の本件リース料の請求をすべて拒絶できるとするのは相当でなく、被控訴人の請求がすべて信義則に反し、また権利濫用であるとの主張も採用できない。

しかしながら、借主が自らリース物件の使用価値を実現することができる通常のリース物件についてのリース契約であれば、借主はリース料がその使用価値に見合うものかどうか検討してリース契約を締結するから、リース料はおのずから合理的範囲内におさまることになるが、本件の場合のようにリース物件の売主でもある警備会社が警備業務を履行して初めてその使用価値が実現できるような物件については、借主は、提供される警備業務の価値とリース料を含む全体としての警備費用が見合うかは検討しても、リース料が妥当であるかの関心を持ち難いところから、前記認定のように、同控訴人は、訴外会社に支払う毎月の警備料が安かったので、その分異常に高額なリース料になる本件リース契約に応じたのであるが、このような場合にも本件リース契約に基づく請求権の行使を総て認めると、同控訴人に過大な損害を負わせる結果になること、一方被控訴人としては、訴外会社と加盟店契約を締結し、これにリース契約の受付け等の事務を代行させて契約の獲得、営業の拡大を図っているのであり、かつ専門業者としてリース契約の内容に通暁し、訴外会社の業務内容及び本件リース物件の用途からして、前記のように事実上本件リース物件の対象価額に警備料の一部を上乗せしたような価額を設定した場合、警備保障会社が倒産するなどして警備業務を履行しなくなったときにも、右の警備料の一部の支払を余儀なくさせることになることを認識し、あるいは認識し得たはずであり、本件リース契約締結に際し、本件リース物件の購入価額ないしリース対象価額を調査すれば、容易に適正な購入価額が判明し、これを基礎にリース料を定めれば、右の不当な結果を避け得たことを考慮すると、被控訴人の請求する本件残リース料相当の損害金のうち、通常の購入価額ないしリース対象価額から算定される、適正なリース料に相当する損害金を超える部分の請求は、信義則に反し許されないと解するのが相当である。

前記認定によると、訴外会社において事実上警備料を上乗せしなければ本件リース物件のリース対象額は、二三万五〇〇〇円を超えなかったのであるから、右二三万五〇〇〇円に一か月1.71パーセントのリース料率を乗じて得た四一〇〇円(一〇〇円未満切り上げ)が月額リース料となったはずであり、したがって被控訴人が同控訴人に対して請求し得る解除による残リース料相当損害金は二四万六〇〇〇円(右四一〇〇円の六〇月分)並びに昭和六二年九月二八日から解除の意思表示が到達した日までに期限の到来した平成元年一月二八日までの各月の月額の残リース料相当損害金四一〇〇円に対する各期限の到来した日から各完済まで年二二パーセントの割合による遅延損害金及び一七万六三〇〇円に対する平成元年二月二日から各完済までの年二二パーセントの割合による遅延損害金となる。したがって被控訴人の請求は右の限度で正当として認容し、その余は失当として棄却すべきである。

三よって、右と異なる原判決を主文のとおり、変更することとし、訴訟費用の負担につき民訴法九六条、八九条、九二条、九三条を、仮執行宣言につき同法一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官鎌田泰輝 裁判官川畑耕平 裁判官簑田孝行)

別紙請求認容金額目録

(一) 金二四万六〇〇〇円

(二) うち金四一〇〇円に対する昭和六二年九月二八日から、

うち金四一〇〇円に対する昭和六二年一〇月二八日から、

うち金四一〇〇円に対する昭和六二年一一月二八日から、

うち金四一〇〇円に対する昭和六二年一二月二八日から、

うち金四一〇〇円に対する昭和六三年一月二八日から、

うち金四一〇〇円に対する昭和六三年二月二八日から、

うち金四一〇〇円に対する昭和六三年三月二八日から、

うち金四一〇〇円に対する昭和六三年四月二八日から、

うち金四一〇〇円に対する昭和六三年五月二八日から、

うち金四一〇〇円に対する昭和六三年六月二八日から、

うち金四一〇〇円に対する昭和六三年七月二八日から、

うち金四一〇〇円に対する昭和六三年八月二八日から、

うち金四一〇〇円に対する昭和六三年九月二八日から、

うち金四一〇〇円に対する昭和六三年一〇月二八日から、

うち金四一〇〇円に対する昭和六三年一一月二八日から、

うち金四一〇〇円に対する昭和六三年一二月二八日から、

うち金四一〇〇円に対する平成元年一月二八日から、

うち金一七万六三〇〇円に対する平成元年二月二日から、

各完済まで年二二パーセントの割合による金員

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